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2021.10.04お知らせ

2021年度前期学位記授与式式辞


本日ここに学位記を受け取られた皆さん、おめでとうございます。花園大学教職員を代表して、心よりお祝いを申し上げます。皆さんをこれまで励まし支えてくださったご家族の方々にも、お祝いと感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

この秋、大学院を修了する方は3名で、その内訳は修士課程文学研究科2名、社会福祉学研究科1名です。学部生は15名が卒業を迎え、その内訳は文学部7名、社会福祉学部8名です。本日、学位記を手にされ、ここに至るまでの苦労や、仲間と共に感じた感動など、さまざまな思いを巡らせていることと思います。

とりわけ皆さんは、2020年初頭に始まった新型コロナウィルス感染症、COVID-19がまん延する中で、最後の大学生活を送られました。授業の形態が大きく変わりました。対面授業がオンラインになったり、実習が中断されたり、卒論が思うように進まなかったり、何よりも友に会うことすら不自由になりました。そうした厳しい状況の中でも勉学や研究に励み、この卒業の日を迎えられたことは、皆さんの向上心の賜物でありその努力に敬意を表します。

コロナ禍の中で確認できたことが一つあります。対面のコミュニケーションの重要性についてです。

人類学者の長谷川眞理子先生によれば、ヒトという生物が進化してきたときの舞台、ヒト固有の適応が進化した舞台、すなわち、人の「適応進化が生じた環境(Environment for Evolutionary Adaptation)」がどのようなものであったかを探求することは、極めて重要であると。ヒトのからだや脳神経系の基本的なプランは、その環境に適応するように進化するとされます。ヒトが誕生したころ、ヒトは「毎日、水と食料を求めてサバンナをてくてく歩き、肉や植物などさまざまな食料を食べる雑種で、カロリー摂取はかつかつ。砂糖や塩や脂肪がふんだんにあることは決してない。みんなで共同生活を営み、狩猟採集で生計を立て、日常的に関係を持つ人数は最大で150人ぐらい。子どもを育てるのも共同作業である。ヒトのからだと脳は、基本的にこのような環境に適応していると考えるのが、進化心理学、人間行動生態学における仮定である」。

「目指すべきは、どんな科学技術社会になるにせよ、どんな理想を実現しようとするにせよ、EEAでヒトが快だと感じてきたことに対しては、まじめに検討することだろう。雑食であること、適度な運動と娯楽が必要であること、対面のコミュニケーションが大切であること、公正感が大切であること、共同繁殖であること、などは、暮らしと社会の制度設計において非常に重要である。具体的にどんな形にせよ、これから逸脱すれば、不幸になるに違いない。」

ヒトは情報空間の中だけでは生きていけない。

令和3126日に公表された文部科学省の中央教育審議会答申は、若者が生きるこれからの時代について、「人工知能(AI),ビッグデータ,Internet of ThingsIoT),ロボティクス等の先端技術が高度化してあらゆる産業や社会生活に取り入れられたSociety5.0 時代が到来しつつあり,社会の在り方そのものがこれまでとは「非連続」と言えるほど劇的に変わる状況が生じつつある」と論じています。

そして、この急激に変化する時代に生きる若者に必要な資質・能力は、次のようなものであると言っています。

「文章の意味を正確に理解する読解力,教科等固有の見方・考え方を働かせて自分の頭で考えて表現する力,対話や協働を通じて知識やアイディアを共有し新しい解や納得解を生み出す力」、また,「豊かな情操や規範意識,自他の生命の尊重,自己肯定感・自己有用感,他者への思いやり,対面でのコミュニケーションを通じて人間関係を築く力,困難を乗り越え、ものごとを成し遂げる力」などであると。これらの力は、花園大学が学生の皆さんとともに育成を目指してきたものであります。

花園大学の学生生活で得た経験と力を携えて社会に巣立っていってください。

この卒業を迎えるまでに、くじけそうになったこともあったかと思います。大学で学ぶことに疑問を感じた方もおられたことでしょう。このような疑問について、教育社会学者の藤田英典先生は次のように論じています。

「形式的には大人への長い自由な準備期間を保障(強制)されながら、実質的には積極的に選ぶ自由を奪われたとき、ひとりひとりの子どもにとって〈大人への過程=大人になること〉はどのように映じるだろうか。何のために修得しなければいけないのかわからない無数の教材、テスト、偏差値、入学難易度。多くの子どもたちにとって、前途にあるのは、砂漠のような、あるいは、トンネルのような、どこまで行っても、出口を見つけて脱け出すことのほかには望みのないような道であり、しかも、その先に見えるのは、のっぺらぼうな大人の貌でしかないとしたら、その心象風景を我々はどう考えたらよいであろうか」。

皆さんの疑問は当然なのです。この閉塞状況の問題の根源は、現代の文化状況そのものにあると考えるべきでしょう。藤田先生がおっしゃる通り、「魅力に溢れた多様な〈大人への過程〉を呈示しえない文化状況にこそ問題の根源がある」のです。〈閉塞状況〉克服の方途は、大人への過程そのものを解放し豊かなものにすること、すなわち、〈文化状況〉そのものの変革に求められねばならない。

この〈閉塞状況〉を克服するため、私は、「分かち合う共同体」を目指してきました。「分かち合う共同体」の基本原理は協力原理です。

現在社会では、市場社会が中心に位置しています。その基本原理は競争です。財政学者の神野直彦先生によると、「「分かち合い」の原理は、競争原理の反対概念である。競争原理は、他者の成功が自己の失敗となり、他者の失敗が自己の成功となる組織を求める。それに対して、「分かち合い」の原理は他者の成功が自己の成功となり、他者の失敗が自己の失敗となる協力原理に基づく組織を要求する。」

現在のグローバル経済は、基本的には、競争原理で構成されています。しかし、グローバル経済を前提にした体制は、有限な地球環境の破壊及び格差の急速な拡大という問題を内包しており、いずれ行き詰まらざるを得ない。

競争を絶対視する人に言いたい。

政治学者の佐々木毅先生がおっしゃる通り、「『われわれ』が一方的に『かれら』を強引に乗り越えることのみを考え、逆に、『かれら』によって『われわれ』が暴力的に乗り越えられることを初めから念頭に置かないというのは、人間の自由に対する認識において重大な欠陥があることを自白するのに等しい」。

人類は、他者と「ともに生きる」ことが必要ですが、「ともに生きる」ためには、地球環境及び文化環境を、人的資源及び経済的資源を「分かち合い」ながら、生きていかなければならない。「社会のすべての構成員が、すべての社会の構成員を必要不可欠な存在だということを相互に確認」し、「社会の構成員が協力して実施する共同作業」が「分かち合い」です。

皆さんは、本日、卒業です。皆さんの大学生活は終了しました。そして、これから皆さんの新たな生活がはじまります。最後に、皆さんの新たな生活について語りましょう。

佐々木毅先生がグローバル人材について論じています。「世界のどこでも通用し、活躍する人材に求められるのはコストに敏感であることであり、地域へのこだわりは決してプラスの意味を持たない。従って、彼らは究極的には社会的に見て「根無し草」であり得る。」すなわち、グローバル人材は究極的には社会的に見て「根無し草」です。

「他方、どの社会も個性と歴史を持ち、地域に根を生やしている以上、「根無し草」ばかりを集めても社会を作ることができない。社会と地域の将来を慮り、多くの人々を糾合して新しい姿を描き、実践していく人材には何よりも地域性へのこだわりが必要である。専門性の高い政治や行政、地域経済の担い手なしに社会の再生産は不可能である。」

人は具体的な人との関係の中に生きているのであり、抽象的な国家と共に生きているのではない。家族や地域や職場の仲間という具体的な人との関係の中で人は生き、それらの人々との間で愛や友情や信頼を醸成し、そこにこだわりを持ち、生きる意味を感じる。

教育学者の中野和光先生も、アンフリーの場に根差す教育を解説しながら、次のように語っています。

「人間はいずれかの場所に生まれ、いずれかの場所で育ち、活動する。その場所は、必ず特定の場所である。人間は必ずある場所にいる。人間は、その場所を、経験、意図に基づいて意味づける。その意味付けは成長とともに変わる。場所を意味づけて生きているということは何歳になっても変わらない。」

花園大学も場所の一つである。場所は、中京区、京都市、京都府と狭くも広くもとりうる。この意味からいうなら私たちの住んでいる地域社会も国も地球も場所である。花園大学で学んだ学生たちには、将来、どの場所で生活しても、その場所を大切にしていただきたい。

卒業そして修了、誠におめでとうございます。

令和3(2021)930

花園大学学長

磯田 文雄

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