人権教育研究センター

第31回花園大学人権週間 講演2

内藤れんさん(QWRCスタッフ)

◆プロフィール◆
ないとう・れん
QWRC(くぉーく) :2003年4月にオープンしたLGBTなどの多様な性を生きる人やその周辺にいる人と、女性のためのリソースセンターです。フェミニズムの視点を重視しながら、多様な性のあり方が当たり前に尊重される社会の実現を目指して活動しています。
内藤れん:定時制高校の3年生。普段は学校に通いながら、休日はれいんぼー神戸という名前のお茶会を主催したり、その他各地にあるコミュニティスペースのスタッフをしている。NPO法人QWRCスタッフとして主に教職員に向けた研修活動をしている。

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大学に虹をかけるには―LGBT・セクシュアルマイノリティと人権の課題

高橋 慎一

●大学とLGBT・性的少数者
 世界を変えるのはたやすいことではありませんが、できないことでもありません。
 そのトランスジェンダーの大学生は女性として生まれました。10代半ばから男性になりたいと考えました。服装を男性っぽいものにしたり、低い声で話すようにしたり、身振り仕草も男性をまねしました。いろいろとためすうちに、男性的な身振り仕草には魅力を失い、服装はユニセックスにして、中性的な雰囲気を身につけました。大学に進学して一人暮らしをはじめたのをきっかけに、名前は、戸籍・住民票の名前ではなく、通名を使い始めました。通名は、聞く側が男性とも女性ともとれる名前です。公共料金の支払い請求書、ビデオレンタル店のカード、病院の診察券などで新しい自分の名前を使ってみました。そのなかで学生証の名前も通名にしようとしました。ところが、学生課に相談したところ断られたので、交渉をはじめたのです。その結果、ほとんどの書面で通名使用ができるようになりました。1990年代の終わり頃の話です。
 今ではこのような対応をする大学はめずらしくないかもしれません。全国各地の大学で、LGBT、性的少数者のサークルが広がっています。関西の大学のサークルには花園大学の学生も参加してきました。たとえば、立命館大学のインカレサークル「color-free」では、花園大学の学生も活動していました。また、関西クィアフィルム・フェスティバルの事務局には、花園大学の学生もかかわっていました。サークルや団体は京都だけみても、京都精華大学(「セイカセクマイマイ」)、京都学園大学(「レインボーフラッグ」)、京都外国語大学(「ARCUS」)、同志社大学(「GRADATION」)、京都大学(「にじいろきょうと」)などあります。学生のネットワークは着実に広がっているようです。

●LGBT・性的少数者という言葉
 大学だけではありません。社会の中での動きもありました。2010年代には、オリンピック誘致の影響もあって、国内の人権状況を欧米の基準にしようという活動がすすみました。世田谷区、宝塚市などいくつかの地方自治体では同性パートナーに証明書を発行することになっています。「ダイバーシティ(多様性)」という言葉をつかって、企業内のLGBT・性的少数者のサークルづくりも広がっています。2000年代には、教育・労働・医療・福祉現場の従事者に、LGBT・性的少数者に対する配慮について研修するとりくみも行われてきました。ちょうどこの時期、2000年代後半から2010年代半ばまで、私もまたLGBT・性的少数者の人たちの労働問題にかかわることになったのでした。
 1980年代・1990年代は「性的少数者」という語が使われていましたが、上に書いたような活動が広がった2000年代後半から「LGBT」という言葉が使われはじめたように思います。「LGBT」とはゲイ(Gay)、レズビアン(Lesbian)、バイセクシャル(Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)など、性的少数者の頭文字をとった表記です。「性的少数者(セクシャルマイノリティ Sexual minority)」とは、「性的多数者」(異性愛者の男女)ではない人たちのことです。自分の生まれながらの性別(生物学的性別 セックス)、社会の中でわりふられる性別(社会的性別 ジェンダー)、性的な関心が向かう対象(性指向 セクシュアリティ)が、異性愛者の男女とは違うと感じる経験があります。
 現在の日本社会は性的多数者(異性愛者の男女)を念頭に社会制度をデザインされています。そんな社会制度の中では、LGBT・性的少数者は、不便なこと、不利益になることがたくさんあります。たとえば、男性と女性は婚姻届を提出して戸籍を一つにできますが(法律婚)、男性と男性、女性と女性のパートナーシップにはその選択肢はありません。長年暮らしたパートナーが病院の集中治療室に入り、面会を求めたところ、家族でないからと断られたという方。就職活動で、性別が関係ない仕事なのに、トランスジェンダーであるということだけで、内定を取り消しされた人。男性でもなく女性でもなく、異性愛者でもない人たちは、制度上いないものとされてきたのです。

●アウティングと自殺
 2015年、一橋大学の法科大学院に通っていたゲイの学生が自殺しました。同級生に告白をしたところ、グループLINE上で他のクラスメートたちにゲイであることを暴露されたのです。学生は、同じクラスで同席しないですむようにと大学に配慮を求めました。しかし、大学はこれに応じることなく、傷付いた学生は自殺しました。遺族は、大学と同級生の対応に対して損害賠償を請求する裁判を提訴しました。
 ジェンダーやセクシャリティなど性に関してLGBT・性的少数者が、周囲の人に自ら語ることをカミングアウトといいます。周囲の人がLGBT・性的少数者の性に関する情報を暴露することを、アウティングといいます。これはアウティングの事件です。 
 社会は変わってきました。しかし、いまだLGBT・性的少数者の多くの人たちはカミングアウトできない状況にあります。なぜカミングアウトができないのでしょうか。カミングアウトしたら暴力的な状況におかれることが予期されるから、と私は考えます。ゲイ・バイセクシャル男性に限定したアンケートですが、「ホモ・おかま・おとこおんな言葉によるいじめ被害割合」「自殺を考えたこと」に該当する人は、10人に6人ほどの割合でいるという結果もあります。
 LGBT・性的少数者が感じる圧力は少しずつ語られ始めています。そして、LGBT・性的少数者をいないものにしようとする教室の、職場の、家庭の、社会の圧力から身を守り、自らを歪められることなく生きる術を実践してきた人たちの歴史があります。

●人権教育の課題
 2017年度の花園大学人権週間は「LGBT」をテーマに、内藤れんさんを講師にお迎えしてご講演いただきます。内藤れんさんは、教育機関における「LGBT」の課題を伝えるご活動をしてこられました。LGBT・性的少数者の学生、教員、職員にとっても、性的多数者の大学構成員にとっても、自分たちが生活する花園大学の環境を考え、変えていくための、第一歩になると考えています。
 人権教育とは、講師や教員から一方的に「正しい解答」を学ぶ場ではありません。私たちが共に考え、変化していくダイナミクスの中に、本質があるのではないでしょうか。
 内藤さんのお話をきっかけに、花園大学の内外でネットワークを広げていけたら、と思います。

参考資料
内藤れん・土井信吾・柳淳也「LGBTってどんな人?」(https://www.slideshare.net/junyayanagi/20140512-lgbt、2017年9月15日アクセス)
厚生労働省エイズ対策研究推進事「ゲイ・バイセクシュアル男性の健康レポート2」(http://www.j-msm.com/report/report02/、2017年9月15日アクセス)
弁護士ドットコム「一橋大学アウティング裁判で経過報告」(https://www.bengo4.com/internet/n_5987/、2017年9月15日アクセス)

(たかはし・しんいち=人権研センター委嘱研究員・非常勤講師)

 

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