人権教育研究センター

第31回花園大学人権週間 講演1

白井聡さん(京都精華大学人文学部教員)

 白井聡撮影者クレジット(梅谷秀司)
撮影者:梅谷秀司

◆プロフィール◆
 しらい・さとし
専攻は政治学・社会思想。著書に『未完のレーニン――「力」の思想を読む』(講談社選書メチエ、2007)、『「物質」の蜂起をめざして――レーニン、<力>の思想』(作品社、2010)、『永続敗戦論――戦後日本の核心』(太田出版、2013)など

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戦後日本の政治と国民の未来

中尾 良信

 この原稿を書いている時点で、安倍首相が衆議院を解散することがほぼ確実であり、おそらく人権週間の頃には新しい政界分布図ができあがっているでしょうが、果たしてそれは私たち国民に将来への希望を抱かせるものになっているでしょうか。もう一つ大切なことは、基本的には全員が選挙権を有している学生諸君の、いったい何人が投票所に赴き、自分たちの代表を選ぶという気持ちで投票したか、ということです。
 もちろん政治的な信条や思想は個々人のものであり、他者の権利を侵害しない限りにおいて、それは自由でなければなりません。しかしながら、結果的に選挙によって選ばれた政治家たちが、ほんとうの意味で私たちの権利や生活を守る法律を作り、政治を行っているかどうかは、それぞれの立場とは別に、注意深く観察しておく必要があります。若者や子育て世代、さらには高齢者にとって、より関心の高い政策は異なることも多いでしょうが、一方でこの国の未来にとって、私たち国民の将来の生活にとって、きわめて重要な意味を持つ法案が、私たちの手の届かないところで決まっているという現実は、特に現役世代の学生諸君にとっては、けっして見逃してはならないものだといえます。
 ここ数年の政治的課題は、消費税増額と経済的てこ入れによって景気を回復し、社会保障を充実させるという点がくり返し強調され、アベノミクスと称する経済政策が一定の効果を上げていると、首相をはじめ政権与党は主張しています。ところが実態経済に景気回復感があるとは思えず、待機児童問題も相変わらずで、少子高齢化に対する目立った施策も打ち出せてはいません。ではこの間、国会での審議が国民的な注目を集め、きわめて強引な形で成立した主な法案は何かと振り返れば、国民の知る権利を制限しかねない特定秘密保護法であり、自衛隊が戦闘行為に参加する可能性を拡大する安保関連法制であり、国民の思想信条を侵害しかねない共謀罪法案ではないでしょうか。そしてその背景として常に強調されるのが、日本という国が日米同盟によって守られているということです。そこには一貫して対米追従、つまり何事も米国の意向に沿うという姿勢があり、それは大統領がバラク・オバマから青天の霹靂でドナルド・トランプに変わっても、一向に変わらないように見えます。
 かつて安倍晋三首相が掲げた政治信条は「戦後レジームからの脱却」でしたが、戦後レジームとはいったいなんでしょうか。ザックリと言い換えればそれは、GHQ主導で作られたとされる日本国憲法の見直しであり、だからこそ安倍首相は、しばしば憲法改正を口にし、ついに今年五月には具体的な改正事項と期日まで言い出しました。そうした考え方の政治家に政権を委ねている私たちとしては、日本の戦後とはいったい何だったのかという問題を、真剣に考える必要があるように思います。そしてそのことは、すでに選挙権を持っている学生諸君にとっても、自分たちが主権者として政治を監視するために、きわめて重要であると思います。
 今回の人権週間でお話し戴く京都精華大学の白井聡さんは、もともとロシア革命の指導者であるレーニンの政治思想を研究テーマとされていましたが、近年は現代日本政治史の分野でその発言が注目されています。特に、二〇一三年に上梓された『永続敗戦論 ー戦後日本の核心』が石橋湛山賞や角川財団学芸賞を受賞して話題となり、以後も日本の戦後政治についての見解を、積極的に発信されています。『永続敗戦論』における白井さんの主張は、戦後日本が対米従属的な政治体制であったことにより、日本人の歴史的意識の中で敗戦の記憶が希薄となり、そのことが戦争責任を否定することを可能にしてしまい、対米従属的であるからこそ、日本の政治権力はその正当性を保つことができたということです。そして、対米従属と敗戦の否認が補完し合うことによって成り立つ日本の政治体制を、白井さんは「永続敗戦レジーム」 と表現されています。さらに永続敗戦レジームがもたらし、同時に意図的に国民に意識させなかったのが、領土問題であり米軍基地問題だとも指摘されています。
 実は白井さんには過去にも御講演を依頼したのですが、そのときは講義と重なったために実現しませんでした。今回のお話では、右に述べたような最近の政治事情に照らしながら、それが戦後日本のたどってきた道とどのような関係にあるのか、さらにそれが日本のどのような未来を指し示しているのかについて、独自のお考えを聞かせて戴きたいと思います。花園大学の学生諸君には、自分たちが選挙権を有する主権者であるという自覚を持ち、そしてその主権を行使するための足場を確かめるために、白井さんのお話を大いに参考にして戴きたいと考えています。

(なかお・りょうしん=人権研センター研究員・文学部教授)

 

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